子どもがもう一人増える共働き夫婦・Aさん家の8ヶ月|売却と購入を同時進行させた住み替えのリアル

📌 この記事はこんな疑問を持つ方に向けて書いています

  • 住み替えは売却と購入、どちらを先に動かすのが正解?
  • 売却と購入のタイミングをぴったり合わせる現実的な方法は?
  • 住み替えローン(買い替えローン)はどんな仕組みで、いつ使うのか
  • 査定額と新居の価格にギャップが出たとき、家計はどう組み直すのか
  • 引渡しまでに売れなかったら、仮住まいはいくらかかるのか

金曜の夜、Aさん(35歳・IT企業勤務)が帰宅すると、妻のEさん(33歳・看護師)はリビングのソファで保育園からの連絡帳を眺めていました。隣には4歳の長男が散らかしたミニカー、Eさんのお腹はちょうど5ヶ月。「そろそろ手狭だね」——その一言から、Aさん家の8ヶ月にわたる住み替えが始まりました。今住んでいるのは東京23区周縁部・駅徒歩10分・60㎡の2LDK、5年前に4,800万円で買って残債は約3,000万円。次の家は3LDKで子ども部屋を確保したい。ただし首都圏中古マンション価格は2020年比で3割以上上昇しており、売却で得られる金額も購入する家の価格も、5年前とは別物の世界になっていました。売却と購入を同時に動かすこの「住み替え」は、どこから手をつけるのが正解だったのか。Aさん家の記録(2026年春時点)から、現場で何度も見てきた落とし穴と判断基準を順に追っていきます。

Aさん家のプロフィール|35歳IT職×33歳看護師、長男4歳+妊娠中での住み替え

まず家族構成と家計から共有します。Aさんは都内IT企業の中堅エンジニアで年収580万円、妻のEさんは大学病院勤務の看護師で時短復帰中・年収340万円。世帯年収は約920万円。長男4歳は来年から幼稚園、第2子は秋に出産予定。現居は東京23区周縁部・駅徒歩10分・60㎡・築8年の2LDKマンションで、5年前(2021年)に4,800万円で購入し、残債は2026年4月時点で約3,000万円。変動金利0.5%台のペアローンで組んでおり、団信もしっかりかかっています。

住み替えのきっかけは、言葉にすれば「手狭」の一言ですが、内訳は3つでした。寝室1つで4人は無理という物理的限界、夫の在宅勤務スペースがダイニングテーブルしかない動線の悪さ、そして長男の小学校入学までに学区を確定させたいという時間軸の制約。Aさん夫妻は最初、「家を売る」と「家を買う」を別の作業として捉えていました。これが、後で痛い目を見ることになります。

第1〜2ヶ月|情報収集期に陥った「ネットだけで決めようとした罠」

最初の2ヶ月、Aさん夫妻は週末ごとに不動産ポータルサイトを開き、希望エリアの3LDK物件を片っ端から比較していました。エクセルで物件名・価格・専有面積・駅距離を200件近く整理したものの、内覧予約に進んだのはたった3件。理由は単純で、「条件が完璧な物件が出るまで待ちたい」という気持ちが先に立ったからです。

同時に、売却の方も「とりあえず一括査定サイトに登録するだけ」で止まっていました。査定金額は6,000万円〜6,500万円という幅で出てきました——5年前の購入価格4,800万円を大きく上回る数字です。各社の根拠が比較できず、Aさん夫妻はこの上限を「希望価格」だと受け取ってしまいました。実際の成約価格は、査定額の上限から200〜400万円下がるケースが現場では珍しくありません。査定額をそのまま家計シミュレーションの前提に置いた結果、後で資金計画を組み直す羽目になります。

過去に担当した案件でも、ネット情報だけで2〜3ヶ月止まってしまう方は本当に多いです。住み替えで最初にやるべきは、希望エリアの新居候補を3〜5件、自分の足で見学し、同時に売却査定を訪問査定で2社に絞り込むこと。机上の比較を100時間続けるより、現場での1日のほうが情報の解像度が変わります。

第3〜4ヶ月|物件選びで直面した「条件を全部満たす家がない」壁

3ヶ月目、Aさん夫妻はようやく仲介担当に内覧に連れて行ってもらい、5物件を実際に歩きました。すると、ネット上のスペックでは似たように見えていた物件が、内覧では全く違う印象になることに気づきます。同じ70㎡3LDKでも、リビングの開口部の向きで体感の広さが2割違う。駅徒歩7分の物件が、坂道込みで実測12分かかる。子ども部屋になる予定の洋室が、収納を引くと実質4畳しかない——こうした「現場でしかわからない情報」が一気に増えていきました。

そして直面したのが、「予算・広さ・駅距離・学区」の4条件を全部満たす物件はほぼ存在しないという現実です。Aさん夫妻が最初に出した希望は、8,000万円以下・75㎡以上・駅徒歩10分以内・希望小学校区。このすべてを満たす物件は、半年間で2件しか出ませんでした。23区周縁部でも3LDK 75㎡新築・築浅は8,000万円台後半〜9,000万円台が中心で、希望価格でぴったりはまる物件は本当に少ない。仲介担当からは「条件の優先順位を3つに絞ってください」と何度も言われ、夫婦で深夜まで話し合いを続けたそうです。

最終的にAさん家が下した決断は、駅距離をやや妥協(徒歩13分)し、その代わり広さと学区を確保するというもの。現場でよく耳にするのは、「駅距離は引っ越し当初は気になるが、半年で慣れる。一方、広さと学区は途中で変えられない」という声です。これは絶対の法則ではありませんが、判断軸として知っておくと迷いが減ります。住み替え全般の判断基準は住み替えで失敗しない方法|後悔した人の共通点と、今日から始める準備の全手順でも詳しくまとめています。

第5〜6ヶ月|売却査定と住み替えローンで揼れた資金計画

物件の方向性が固まった5ヶ月目、Aさん夫妻は次に資金計画の壁にぶつかります。新居候補は8,200万円、諸費用込みで約8,700万円。一方、現居の売却見込みは訪問査定の結果6,300万円が現実ライン、残債約3,000万円と売却諸費用約220万円(仲介手数料・抵当権抹消費用など)を引いた手残りは約3,080万円。これに自己資金500万円を合わせて、新居資金として用意できるのは約3,580万円でした。

つまり差額の約4,620万円を新規ローンで組む必要がある計算になります。ここで初めて、Aさん夫妻は「住み替えローン(買い替えローン)」という選択肢を仲介担当から提示されました。これは、現居の残債と新居の購入資金を一本化して借り入れる仕組みで、売却の手残りでは現居のローンを完済しきれない場合などに使われます。Aさん家の場合は売却で残債は完済できる見込みだったため、住み替えローンではなく通常の住宅ローンで対応することにしました。

判断のポイントは3つありました。1つ目、売却の手残りで残債が完済できるかどうか。2つ目、売却と新居購入の引渡しタイミングを合わせられるか(合わせられない場合はつなぎ融資が必要)。3つ目、ダブルローンの一時的な負担に家計が耐えられるか。Aさん家の場合、月の返済可能額は手取りの25%以内に収めたいという妻の希望があり、新規借入額は4,620万円・35年・変動金利0.7%台で月返済約12.4万円という見立てに落ち着きました。金利動向の見極めについては住宅ローン借換えでやりがちな失敗5選|返済額を本当に減らす人がやっている回避策で書いた考え方も参考になります。

実際に計算してみると、住み替えで一番揺れるのは「査定額の幅」です。上限と下限で500万円の巾が出れば、新居の選択肢が変わります。特に2024〜2026年のように相場が動いている時期は、3ヶ月ごとに査定額が変わるケースもあります。Aさん夫妻はあえて下限ベースで資金計画を組み、もし上振れしたら教育費に回すと決めました。これが後の精神的余裕につながります。

第7〜8ヶ月|売却決定〜引渡し〜入居の段取り、最後の落とし穴

7ヶ月目、Aさん家は新居の売買契約を結び、同時に現居の売却活動を本格化させました。ここでの一番の悩みは、引渡しタイミングです。新居の引渡しは契約から約2ヶ月後、現居は買主が見つかってから約1.5ヶ月で引渡しというスケジュールでした。両者をぴったり合わせるのは現実的に難しく、Aさん夫妻は仲介担当と相談して「買い替え特約」を新居の契約に付けました。

買い替え特約とは、現居が指定期日までに売却できなかった場合、新居の契約を白紙に戻せる特約のことです。売主側が嫌がるケースもありますが、新築マンションの売主や個人売主のうち事情に理解のある方であれば付けられることが多いです。Aさん家の場合、新居が竣工後3ヶ月経った在庫物件だったこともあり、売主の不動産会社が応じてくれました。

もう一つの落とし穴は、引っ越し費用と仮住まいの可能性でした。買い替え特約があるとはいえ、もし売却が引渡しまでに決まらなかった場合、ダブルローン状態か仮住まい移行の選択を迫られます。仮住まいの月額は、2026年現在の東京23区内・同等広さで月18万〜25万円、加えて引越し費用が2回分(往復で約60〜80万円)。賃料相場も2020年比で1〜2割上がっており、5年前の感覚で予算を組むと足りなくなります。Aさん家ではこの「最悪ケース」も想定し、自己資金から150万円ほど別枠で確保しました。実際には現居が引渡しの3週間前に売却決定し、仮住まいは回避できましたが、現場で何度も見てきた中では、ここで2回引っ越しになるケースが2〜3割は出ます。

8ヶ月目、Aさん家は無事に新居へ入居しました。長男には自分の部屋ができ、夫の在宅勤務スペースも書斏として独立。第2子の出産にも間に合いました。

住み替えでよく聞かれる質問(FAQ)

Q. 売却と購入、どちらを先に進めるのが正解ですか?

A. 「売り先行」が無難なケースが多いです。売却額が確定してから購入予算を組めるため、資金計画のブレが小さくなります。一方、希望エリアに物件供給が少ない場合は「買い先行」で先に新居を押さえてから売却に動くケースもあります。Aさん家のように両方を並行で進める「同時進行」は、買い替え特約とつなぎ融資の枠組みを使える担当者に相談できることが前提です。

Q. 住み替えローン(買い替えローン)はどんなときに使うのですか?

A. 売却の手残りで現居の残債を完済しきれない場合、または売却と購入のタイミングがずれてダブルローン期間を抱える場合に検討します。金利は通常の住宅ローンよりやや高めに設定されることが多く、審査も厳しくなる傾向があります。Aさん家のように残債が売却で完済できる場合は、通常の住宅ローンで足ります。

Q. 売却益が出た場合、税金はかかりますか?

A. マイホームの売却で利益(譲渡所得)が出ても、3,000万円特別控除の特例を使える場合があります。所有期間や買い替え時の要件によって扱いが変わるため、契約前に税理士または税務署に相談するのが確実です。Aさん家の場合は売却益がそもそも出ない見込みだったため、控除は不要でした。

Q. 住み替え全体でかかる総費用は、どのくらい見ておけばいいですか?

A. 一例として、新居8,200万円・現居6,300万円で売買するAさん家の場合、新居側の諸費用(仲介手数料・登記費用・ローン事務手数料・登録免許税・火災保険・引越し費用など)で約530万円、現居側の諸費用(仲介手数料・抵当権抹消費用・ハウスクリーニング等)で約220万円、合計で約750万円かかりました。物件価格や金融機関で前後しますが、住み替え総費用は新居価格の6〜8%+売却価格の3〜4%が一つの目安です。あくまで目安ですが、最初に「諸費用枠」を用意してから物件価格の上限を決めると、契約直前に予算オーバーになるリスクが減ります。

Q. 引渡しまでに売れなかったら、仮住まいはいくらかかりますか?

A. 2026年現在、東京23区内の同等広さ(2LDK 60㎡前後)で月18万〜25万円程度、加えて引越し費用が往復で60万〜80万円かかるケースが多いです。さらに礼金・敷金・短期賃貸の手数料を含めると初期費用だけで40万〜60万円別途必要になります。買い替え特約をつけられない場合や、新居の引渡しが固定されている場合は、最初の資金計画段階で仮住まい予算150万円程度を別枠で確保しておくと安心です。

Aさんのその後と、振り返って言えること

入居から3ヶ月後、Aさん家を訪ねたとき、Eさんは産休中で、長男は新居の自分の部屋でブロックを組み立てていました。「あの8ヶ月、毎日何かしら不安だった。でも、終わってみれば、夫婦で家のことをこれだけ深く話したのは初めてだった」とEさんは話していました。Aさんも「住み替えって、家を変えるんじゃなくて、家族の優先順位を見直す作業なんだと気づいた」と振り返っています。

Aさん家の記録から、住み替えで売却と購入を同時進行させる方に向けて、3つの学びを残します。

  1. 査定額は幅で見て、下限ベースで資金計画を組む。上限を信じて新居予算を立てると、後で必ず削るところを探すことになります。下限で組んでおいて、上振れしたら別用途に回す——これが精神的余裕の源です。
  2. 条件の優先順位は3つまでに絞る。予算・広さ・駅距離・学区・築年数・向き・階数すべてを満たす物件は、現実にはほぼ存在しません。夫婦で「絶対譲れない3つ」を決めてから動くと、内覧の判断スピードが2倍以上速くなります。
  3. 買い替え特約と仮住まい予算を、最初の契約段階で交渉する。売却が遅れる可能性は2〜3割の確率で発生します。最悪ケースを想定してお金と契約条項の両方で備えると、想定外の事態でも家族が落ち着いて判断できます。